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Tsuneyuki Research Group


研究室を志望する学生の皆さんへ

間はものを作ることに純粋な喜びを見出す動物です。 それが生活の糧になるとか, 役に立つとか,あるいは人にほめられるとか言う前に,ちっぽけながらも何かの創造者となったことをうれしいとか誇らしいと感じます。 人が幼年期から少年期にかけて育んでいくこの感情こそ,発見の喜びと並んで,科学者の生きる糧だといって良いでしょう。

コンピュータは物性理論の研究者に,二重の意味でものづくりの喜びを与えてくれました。 ひとつは, 計算機シミュレーションによって仮想的な「もの」を作る喜びです。コンピュータの中に数値データとして(あるいは画像データとして) 存在するミクロな「もの=物質」は,ときとして実物よりも迫真性をもつことすらあります。 いわゆるヴァーチャル・リアリティ研究が, 日常目にするものを相手におよそ勝ち目のない戦いをしているのに対して,原子や分子,結晶構造,電子雲の広がりを裸眼で見た人はいないからです。 この実物に勝る迫真性は,ハッブル宇宙望遠鏡の画像に, それが派手に画像処理されたものであると知りながらも思わず息をのむのと似ているかもしれません。

さらに最近の電子状態計算手法を使うと,自然界では見つかっていない新しい物質の構造や物性を,非経験的に予測することができます。 そのような理論予測(マテリアルデザイン)に基づいて作られた材料も登場し始めています。良いアイデアがあれば,コンピュータを使って本当に 「もの」が作れる時代になりつつあるのです。

もうひとつは,計算機シミュレーションの手法,すなわち方法論やプログラム(ソフトウェア)自体を作る喜びです。 これは実験家が新しい実験装置や観測装置をつくったときに感じる喜びに似ています。これまでにない新しい装置を開発すれば, 誰も見たことのない自然の姿を,もしかすると世界で初めて見ることができるかもしれない! そういう高揚感と期待は, 結果が出るのに時間のかかる方法論やプログラムの開発を続ける上で,心の支えになってくれます。

表面反応,高圧下の物質変化,水素を含む固体,強誘電体,電子相関...私たちの研究対象・ テーマは少々まとまりがないように見えるかもしれません。 実は,その共通点は「実物実験やその解釈が難しい」という点にあるのです。 まずは実物実験ではなかなか得られないミクロな情報をシミュレーションによって得ること, 誰も見たことのないミクロな世界を理論計算によって明らかにすること,そして物質の個性を反映したシミュレーション結果から, 一般的な物理を抽出すること,これが私たちの目指す研究です。 そのために必要な新しい計算機シミュレーション手法の開発も, 当然ながら私たちの重要な研究テーマです。

皆さんには,はじめに述べた二重の意味での「ものづくりの喜び」を感じつつ,研究を楽しんでいただきたいと願っています。

[研究室進学の条件]
  1. 量子力学,統計力学,固体物理学に関する基本的な知識と理解が必要なことはいうまでもありません。…とはいえ, 学部の間にすべて理解するのは難しいもの。理解が足りないと思ったら,大学院にはいってからがんばりましょう。
  2. コンピュータやプログラミングに関する知識は問いません。必要になったとき勉強する意欲があれば十分です。
  3. 化学,地球惑星科学,生物学など,物理学以外の分野との境界領域を物性物理学の手法で開拓したいという意欲のある方, 歓迎します。だれも歩いたことのない原野を自分の足で歩きましょう。