固体中のアニオンをH−で置換することはH−の強い還元性から困難であったが、近年になりそれが可能になってきている。H−での置換は電子ドープなどによる物性の制御に利用することができる。このような固体中水素の位置や電子状態を知るにはプロトン核磁気共鳴(1H NMR)が有効な手段の一つである。1H NMRの化学シフトは水素の荷電状態によって異なり、通常はH+であれば正、H−であれば負になると考えられている。しかし固体中ではH−の化学シフトが正になるなど理解が容易でない。そこで本研究ではBaTiO3において酸素を水素で置換したBaTiO3−xHx(図)について、水素の荷電状態とNMR化学シフトを第一原理的に計算し、実験との比較を行った。
水素濃度x = 0.125, 0.5, 1について構造最適化とBader解析を行うと、いずれの濃度でも水素は酸素サイトで安定し電子数は約1.6となり、実験と同じく酸素サイトでH−なるという結果を得た。また背景電荷を置き絶縁体の状態で化学シフトを計算したところ、水素濃度によって差はあるが何れも1–3 ppmであった。実験ではx = 0.1で4.4 ppmと報告されているため値が正になるという傾向は同じであるが、他の物質での計算値と実験値の差に比べて大きく、伝導電子の影響を考慮する必要があると考えられる。