第一原理計算による物性の研究において,しばしば極めて大規模な系を対象としなければならない場合がある.しかしながら,密度汎関数法の計算コストは系の大きさの3乗に比例して増加するため,計算機の能力による制約を受けてしまう.この問題に対処するために,計算コストが系の大きさの1乗でスケールする手法(オーダーN法)が幾つか提唱されており,その内の一つに分割統治法がある.分割統治法とは,大規模系を小さな部分系に分割し,個々の部分系における電子状態計算の結果を統合する事で,全系の物理量を構成する手法である.ところが,分割統治法では自己無撞着計算に各部分系の波動関数のみを使用するため,全系の波動関数を考慮しておらず,従ってそのままでは全系のスペクトルを計算できないという問題がある.
そこで,我々は分割統治法計算の出力を最大限に利用してハミルトニアンを再構成し,全系スペクトルの高速計算を可能にする手法の開発を行っている.基盤となる分割統治法として,高精度で汎用性の高いLS3DF法[1]と呼ばれる手法を採用した.具体的には,LS3DF法の計算における副産物である,部分系の軌道波動関数と軌道エネルギーを組み合わせる事で,全系のハミルトニアンを再構築する.このように表したハミルトニアンは部分系の軌道だけで展開できるため,ハミルトニアン行列要素を部分系軌道の内積を計算するだけで求めることができ,計算量を劇的に削減することができる.
[1] L.W.Wang, Z.Zhao, and J.Meza., Phys. Rev. B 77, 165113 (2008).