Research
「非磁性材料界面における遍歴強磁性」
磁性原子を用いずに強磁性を発現させる事およびそのメカニズムを明らかにする事は重要である。さらに、半導体バルク中のみならず[1]、低次元系である界面においても非磁性元素材料による磁性が発現されるかどうかは興味深い。
実際、モデルハミルトニアンによる解析では純粋な2次元系での有限温度の強磁性は禁止される。また、窒化物半導体は既に実用となっている発光デバイスのみならず、スピントロニクス材料の候補としても期待されており、
実際GdやCrをドープしたGaN等の希薄磁性半導体では室温強磁性が報告されている[2]。そこで本研究では、格子整合性の高い窒化物半導体/ホウ素化合物界面に着目し、密度汎関数法による第一原理計算を行った[3]。
様々な界面原子構造を検討する事により最安定となる界面原子構造を同定し、AlN/MgB2(0001)界面において強磁性的スピン分極が安定となるという結果を得た。
スピン分極は界面に局在しているという意味で2次元的であり、強磁性状態の起源は窒素原子の2p//状態のスピン分極によるものである事を明らかにした。
等方的HeisenbergモデルではMermin-Wagnerの定理により2次元強磁性は実現しないが、現実の系では界面垂直方向に対して対称性がなく、磁気異方性により強磁性状態は許容される。
本系の場合では磁化容易軸は界面垂直方向であり、上記スピン分極2p//状態は同方向の非等方性により変形している。
また、原子構造からは界面での化学結合は飽和している様に見えるため、このスピン分極は電子状態を実際に計算しなければ予測する事は出来ない事が特徴である。
AlN/MgB2(0001)界面における窒素2p//状態の局所状態密度を計算しNiおよびFeの状態密度と比較した結果、Fermi準位近傍においてスピン分極によりピーク位置がFermi準位からずれているという意味において類似している事が分かった。
また、窒素2p//状態の局所状態密度はBloch状態となった後においても完全に2重縮退しており、AlN/MgB2(0001)界面における界面強磁性はHund結合とFermi準位近傍の高い局所状態密度によるバンド強磁性であると考えられる。
さらに、格子整合性が高いもう一つの窒化物/ホウ化物界面であるGaN/ZrB2界面では金属誘起ギャップ状態の効果[4]により、界面強磁性が実現されない事も明らかと なった。
[1] Y. Gohda and A. Oshiyama, "Stabilization Mechanism of Vacancies in Group-III Nitrides: Exchange Splitting and Electron Transfer", J. Phys. Soc. Jpn. 79, 083705 (2010).
[2] Y. Gohda and A. Oshiyama, "Intrinsic ferromagnetism due to cation vacancies in Gd-doped GaN: First-principles calculations", Phys. Rev. B 78, 161201(R) (2008).
[3] Y. Gohda and S. Tsuneyuki, "Two-dimensional intrinsic ferromagnetism at nitride-boride interfaces", Phys. Rev. Lett. 106, 047201 (2011).
[4] Y. Gohda, S. Watanabe, and A. Gross, "Quantum Electron Transport through Ultrathin Si Films: Effects of Interface Passivation on Fermi-Level Pinning", Phys. Rev. Lett. 101, 166801 (2008).