研究紹介

「チタン酸バリウム(BaTiO3)の強誘電の起源」

チタン酸バリウム(BaTiO3)は電子エレクトロニクス分野で最も応用が進んでいる強誘電体酸化物の一つであり、最先端の電子機器にはBaTiO3を用いた超小型のコンデンサが数百から数千個搭載されている。 ところが、 高度な産業応用の発展に比べその強誘電性発現メカニズムの理論的解明は未だに乏しく、 物質中で何故強誘電性が生じるのかさえも電子論的な立場からは十分に解明されていない。 我々はBaTiO3の強誘電歪が電子ドープにより消失する事を密度汎関数理論(DFT)ベースの第一原理計算により示し、この物質をベースに強誘電性発現メカニズムを探る研究を進めている。

図はドープされた電子キャリアの結晶中での空間分布を示しており、電子キャリアは伝導帯のキャラクタを反映してTi-3d軌道上に主に分布することが分かる。 電子キャリアによる強誘電歪消失の起源を探るために、DFTの全エネルギーを運動エネルギーとクーロンエネルギー項に分割し(ETotal = EKinetic + ECoulomb)、 それぞれのエネルギー項が強誘電歪ポテンシャルに与える寄与を計算した。その結果、強誘電歪ポテンシャルは運動エネルギーとクーロンエネルギーのせめぎ合いで生じる非常に僅かなエネルギー差として生じる事と、 電子キャリアを導入してゆくと強誘電歪を与えるポテンシャルの極小値消失により強誘電歪が消失することが分かった。中性状態と電子ドープ状態の強誘電歪ポテンシャルの差分から、 強誘電性消失の起源は電子キャリアによるクーロンエネルギー利得低下が主な要因である事が示されたが、 これらの計算結果は強誘電歪の安定化は長距離クーロン力によって引き起こされるという従来の予想に対する第一原理計算による裏付けになっている。

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