Research

「第一原理非調和格子モデルを用いた格子熱伝導率計算」

図:非平衡分子動力学

格子熱伝導率はデバイスの排熱性能や熱電変換材料の性能を決める重要なパラメータである。 熱伝導率を理論的に予測するための手法としては緩和時間近似に基づくボルツマン方程式が広く用いられてきたが、この方法では表面・界面や不純物の効果を精度良く取り込むことが困難である。 緩和時間近似を用いない計算手法としては(非平衡)分子動力学法があり、複雑な構造を持つ系にも適用可能であるものの、多数原子の長時間シミュレーションを行う必要があるため計算コストが高くなる傾向がある。 そのため、電子論に基づく汎用的な第一原理分子動力学法を用いることは不可能であり、特定の原子種でのみ利用可能なモデルポテンシャルを用いた古典分子動力学法が行われてきた。

そこで我々は、さまざまな物質・構造に適用可能な汎用的かつ一般的な非調和格子モデルの一般的導出法を確立し、導出した非調和格子モデルと非平衡分子動力学法を組み合わせた格子熱伝導率計算のための新しい方法論を開発した。 非調和格子モデルは物質・構造に依存する2次、3次、4次の力定数で記述されており、これらの力定数は第一原理分子動力学法で決定する。 提案した計算手法の妥当性を確認するため、シリコンとダイヤモンドに対し本手法を適用した結果、バルクの熱伝導率として妥当な値が計算結果として得られた[1]。 また、システムサイズの増加に伴い熱伝導率が非線形に増加することも確認された。これは、システムサイズとフォノンの平均自由行程が同程度である準バリスティック領域に特徴的な振る舞いである。


 

[1] T. Tadano, Y. Gohda and S. Tsuneyuki, in preparation.


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